フィルマゲドン記 9月11日木曜日その1

この日は7時ごろには目が覚めた。
しかし、携帯電話のその留守電に気が付いたのは8時半ごろ。
午前4時23分の渡辺文樹監督からの着信だった。

「フー(息)、あー、えーと、本日午前4時過ぎに、えーと一応都内で逮捕されました。ということで映画祭にはどうなるか分かりませんのでよろしくお願いします・・・ガヤガヤガヤ」
場所はどこから電話しているか分からないがうしろがガヤガヤしていて大勢の人がいるようだ。

この前の日の水曜日に発売された週刊新潮で監督の作品が大々的に記事で取り上げられていたので、危惧していたのだが。非常に困った。とりあえずすぐに状況を駅前シネマの藤岡支配人に伝える。
その後、渡辺監督の携帯電話に連絡すると奥さんが出た。都内でポスターを貼っていたところ現行犯で逮捕されたという。状況が変わり次第すぐに連絡をするとのこと。※補足すると、渡辺監督には金沢市内での街頭ポスター貼りは厳禁ということで約束していた。
9時半ごろに関西の映画黒幕T氏に覆面オールナイトの作品を急遽送るよう依頼する。T氏から借りる作品は一番最初の予定通りのプログラムだ。8月中旬に渡辺監督の作品をオールナイトにブッキングすることを思いつき、一度断っていた海外モンドドキュメンタリーの4本である。12日金曜日の午前中までにはフィルムを金沢に到着できるということで手配する。しかし、まだ渡辺文樹オールナイトの実現は諦めていなかった。

同じ頃、『消えた少女たち』や『アブグレイブの亡霊』の字幕制作がまだ完成していなかったため、金沢科学技術専門学校の学生、先生と金沢大学院生からなる字幕制作チームが不眠不休で字幕の仕上げをしていた。
一方、会場の金沢21世紀美術館シアター21では、別チームの映写技師と字幕オペレーター(映画の会スタッフの経験なしの素人)がフィルムで上映する『意志の勝利』にデジタル字幕を合わせる練習中だった。

12時に東急ホテルクリスピン・グローヴァーさんとマーラ・ラフォンテインさん、高橋ヨシキさん(急遽本日のクリスピンさん取材の通訳を依頼した)と合流。クリスピンさんたちは6時ごろに起きて金沢市内観光をずっとしていたそうだ。兼六園へもすでに行ったという。日本庭園に非常に興味があるようで、日本に来る前からずっと兼六園に行きたいと言っていた。プラハにある別荘に日本庭園を準備中だとか。
この時の昼ごろにはTVのニュースやWEBニュースで渡辺文樹逮捕の報が全国に広まっていた。

「はざま」で昼食を食べる。マーラさんは野菜のみの特別メニューで我々3人は日替わり定食を注文した。食事中に出た話題はダニエル・クロウズのグラフィック・ノベルについてなど。クリスピンさんは個人的にもクロウズをよく知っているらしい。クロウズ原作の『ゴーストワールド』では、役をオファーされたが『チャーリーズ・エンジェル』のほうを受けて断ったらしい。マーラさんは『ゴーストワールド』の大ファンなので「『チャーリーズ・エンジェル』なんか断ればよかったのに」と言っていた。なんだかんだでゆっくりしてしまい13時半過ぎになる。
14時からシアター21で地元マスコミの記者会見があるため急ぐが、写真やTVにも写ると伝えると、クリスピンさんがスーツにネクタイの正装に着替えたいと希望したので、ひとまずホテルまで送ってロビーで待つ。もう14時を過ぎていたが、記者さんたちには待ってもらうことにした。
クリスピンさんは着替えずに洋服を持って5分ぐらいで汗をかきながら急いですぐに部屋からロビーへやって来た。
車で急いで記者会見会場のシアター21に行き、14時15分ごろ到着。
しかし、連絡ミスでクリスピンさん控え室にカギがかかっていて開かなかったので、クリスピンさんには多数の機材や備品などが保管されている倉庫で着替えてもらった。何も不平も言わずに着替えているクリスピンさんを横目に記者会見の内容を通訳として同席してもらう高橋ヨシキさんに説明。
ヨシキさんが思っていたものよりも大掛かりな取材だったので、「そんなこと聞いてないよ!」と言われるが、「もうみんな待っているので」と説得した。